インタビュー
うつ病の検知に、機械学習の研究で貢献したい。
大学院 理工学研究科修士課程 電気電子情報工学専攻2年 鈴木 圭 さん
機械学習を応用した脳波によるうつ病検知の研究を行なっています。近年、飛躍的に技術が発達した機械学習、つまりAIは一見関わりが薄いように思える、うつ病などの精神疾患の診断に役立てられると考えています。現在、うつ病の診断は主に医師との面接や患者本人の問診票への回答によって行われています。MRIなどでうつ病検知を試みる研究がありますが、コストが高いなどの課題があります。そこで、脳の活動を計測した頭皮上の電極から計測する脳波が、うつ病の検知において有望視されることがあります。私たちの研究テーマは機械学習を応用し、脳波によってうつ病を検知するもので、私の役割は診断支援を目的としたAIの開発です。
研究を始めた頃は診断の精度が悪く苦労しました。そこで取得する脳波データそのものに問題があるのではないかと仮説を立てます。脳波の計測は頭部に機器を被せて行うため、頭皮と脳内の電気活動が起きている位置に多少の距離が生じます。喋ったり目を動かしたりするだけで脳波とは関係のないデータ、ノイズが発生しておりその影響で正確な診断ができていないことに気がつきました。そこでこのノイズを、時間をかけて取り除く作業を実施します。これによりデータの質が向上し、診断の精度が格段に上がることが判りました。質の良いデータを作るという工程が、この研究の一番の苦労です。しかし、あくまでデータセット上ではありますが、私たちの研究では80%〜90%の確率で健康な人とうつ病患者との見分けがつけられるようになるなど、成果も得られています。また、症状が似ている精神疾患は、診断が難しいという課題があります。例えば、うつ病と双極性障害。うつ病は抑うつする状態が続きますが、双極性障害の場合は気分が過度に高揚したりします。現状では見分けが難しく、さらに研究を深める必要があります。
データをベースとする研究であるため、どうしても多くの被験者が必要になります。うつ病に悩まれている方の就労サポートをしている事業所があるのですが、そこの方々にご協力いただき、紹介していただいております。うつ病の診断については、まだ実用化できるほどの有効があるわけではありません。自分たちの研究上では成果が出ているのですが、私たちが研究できているのは、あくまで日本人だけです。将来的には国籍や人種、性別、年齢なども考慮する必要があると考えています。
研究テーマの性質上、考察の段階で医学や心理学、脳内の構造についてなど、幅広い知識が必要となります。特に自律神経や副交感神経についての知識は必須です。自主的に学習を深める他、定期的に研究室のメンバー同士で論文を読み交わし、疑問に思った点についてディスカッションすることで知見を広げています。学外のイベントに参加することもあり、東京ビックサイトで自分たちの研究を説明する機会もありました。また、修士1年次の脳波・脈波による感情推定の研究が論文誌に掲載されるなど確実に成果となっています。研究室でさまざまな経験を積めているおかげで知識量が増え、後輩から頼られることも多くなりました。日々やりがいを感じながら、研究生活を楽しむことができています。
来年度からは博士課程に進み、さらに研究に打ち込もうと考えています。世の中には自分に起こっている症状が何の病気なのか分からずに悩んでいる方が多くいます。病名不明の疾患の重症度や判別の難しい診断を簡易に行える画期的な装置を開発して、助けになりたいと思います。