インタビュー
日本の空き家問題に、学生の力で貢献したい。
空き家改修プロジェクト代表 建築学部 建築学科4年 川村 寛樹 さん
日本は現在、住宅の1割以上が空き家と言われており、その数は年々増え続けています。特に地方は過疎化の影響もあり、空き家問題が深刻な状況です。補助金や、物件と空き家が欲しい人を結ぶ、「空き家バンク」というシステムなどもありますが、需要としては少ないのが現実です。行政としても空き家をどうにかしようとする動きはあるものの、追いついていません。そういった問題に学生が参加することは、とても有意義なことだと感じています。
私は高知県出身であるため、地方から出てきた若者の一人として、整った環境の中で勉強できることはとても価値のある経験だと感じています。だからこそ、過疎化に関する問題は難しい。IターンやUターンなどの仕組みを充実させることが必要だと考えています。私は空き家改修を通じて少しでも地域を元気にするお手伝いがしたいと思い、学生プロジェクト団体「空き家改修プロジェクト」に参加しました。
本プロジェクトの目的は、空き家改修を通して街を巻き込んだ地域活性化に貢献すること。そして、自分たちの手で作業を行い、建築に関する実務経験を積むことです。メンバーは建築を学ぶ約120名の仲間です。電気系統などの一部資格が必要となる作業以外は学生だけで行なっており、設計、施工はもちろん、内装や家具作りなども実施します。またイベント・ワークショップの企画運営、SNSでの情報発信なども重要な業務です。改修後の建物はNPO法人の運営施設や宿泊施設、駄菓子屋など幅広い用途で復活し利用されています。このプロジェクトに参加したくて芝浦工業大学に入学してくる新入生もいるほど、大きなやりがいと社会的な意義のある活動です。
私は活動のほとんどがコロナ禍となってしまいました。思いを込めて準備してきた計画がコロナ禍を理由に白紙になってしまうなど、悔しい経験もしています。コロナ禍では地元の方々とオンラインでの交流を続けるなど、活動が制限されている中でも、できることを探し、プロジェクトを存続させられるよう努めました。この時の活動が地元の方々との絆を深める良い機会となり、現在の改修依頼などにつながっていると感じます。
私にとって一番思い出に残っているのは、3年次にチームリーダーとして参加した静岡県東伊豆町「稲取ふれあいの森」にある旧管理棟の改修です。長い間未活用だった木造平屋建ての建物を、ワーケーション客や町内で活動する学生の拠点施設に改修。森に囲まれた立地に調和する木の質感を生かしたデザインを目指しました。メンバーの多くは勉学、アルバイトと忙しい毎日を送っており、熱量に差が出るのは否めません。メンバーのモチベーションを保つための声かけはチームリーダーの役割です。円滑な作業を図る上では、役割分担と現場指揮が重要。チームリーダーを経験したことで将来に役立つ多くの学びがありました。建物は約1年間をかけてワーケーション施設「MORIE」として生まれ変わりました。地元の方から「君たちに頼んでよかった」と言われた時の感動は忘れられません。
空き家改修プロジェクトの先輩方には設計事務所やアトリエで働いている人が多いです。プロジェクトで関わった街が好きになり、そのまま住んでしまう人もいます。稲取の物件を改修し、民宿の経営を始めた先輩なんかもいます。街の人たちとも仲良くなれて、人と人とのつながりを作れることは、このプロジェクトの大きな利点です。私は春から社会人として建築の現場業務に就きます。いつかは自分の設計事務所を構え、地元高知の空き家問題にも取り組みたいと考えています。