インタビュー
現場を学んだ貴重な経験を 自らのキャリアに生かしたい。
大学院 理工学研究科修士課程 建築学専攻2年 松村 千裕 さん
私は元々、建設の作業プロセスに興味がありました。建築現場についてもっと深く学びたいと思うようになったのは、学部3年生の時に参加した佐渡木匠塾プロジェクトです。新潟県佐渡市に約2週間滞在し、設計、施工管理、記録などの役割を分担しながら金物を使わない板塀づくりに取り組みました。試作を繰り返しながらデザインを検討するなど、自分の手でものづくりをする面白さに夢中になりました。蟹澤研究室を選んだのは、やはりさまざまな建築現場を実体験でき、多くの専門工事会社の方の声を聞く機会があったからです。
いま私が研究しているのは、技能者の多能工化というテーマです。多くの建築現場では型枠をつくる、鉄筋を組む、コンクリートを流すなどの作業を別々の専門業者が担当します。これを一つの業者が行うことで、現場作業の効率を高めるのが多能工化の目的です。近年、少子高齢化による人手不足や建物構造の複雑化により作業の専門分化が難しくなっていて業務の再編が必至です。多能工化もそうした流れの一環になっています。
豊洲キャンパスで新校舎の工事が始まった2020年の冬から2022年4月にかけて鹿島建設様との共同研究で多能工の作業について調査しました。作業記録表の内容をデータ化し、それぞれの作業について本来どの工種の職人さんが担当する仕事なのかを整理・分析したのです。その結果、一つの業者が17カ月間にわたる躯体工事において23工数、273種類もの幅広い作業を行っていました。作業内容によっては熟練の職人さんより多能工チームの方が効率的だったことなど、意外な発見もありました。教科書には載っていない現場の職人さんたちが使っている用語について詳しくなったのも収穫です。キャンパスの中に現場があるので調査がしやすく、実際の作業を長時間にわたって自分の目で見られたのは楽しい経験でした。こんなに大きな建物なのに想像していた以上に作業の一つひとつを人の手が行っていると知り、感動しました。調査の結果を学会で発表した際には多くの質問を受け、多能工というテーマが非常に注目されているのを実感しました。
私は高校生のときの留学体験で海外に興味を持ちました。芝浦工業大学を志望したのは、グローバルな工学系教育に魅力を感じたからです。在学中シンガポールでの海外インターンシップやマレーシアの大学で行われた研究室の共同ワークショップに参加するなど、海外で学んだことも財産になりました。芝浦工業大学は留学や国際交流のチャンスが多いので、これから入学してくる後輩にも、ぜひ世界を見てほしいと思います。私が新校舎の建設現場から多くを学んだように、実際に自分の目で見る機会はとても貴重です。
修了後の進路としては組織設計事務所で建築監理の仕事に就くことが決まっています。佐渡木匠塾プロジェクト、蟹澤研究室、鹿島建設との共同研究など、芝浦工業大学では沢山の貴重な経験をさせていただきましたが、多能工や現場の課題について貯えた知識を生かしながら理想の現場を追求していきたいです。優れた技術を次世代に継承するためにも大規模建築物から小規模な木造建築まで、幅広い物件を手がけられる人材になることが目標です。新校舎で過ごせる日々も少なくなってきましたので、残りわずかの学生生活を楽しみたいと思います。